第13回「コンクリートジャングル・ヤマガタシティ(実話)」

2002/08/23更新


旅から教えられることは数知れない。
山形には隣県ということもありよく出張するが、すごく神憑り的にスリリングな体験をしたことがある。

 


●真の男はホテルでは寝ない

ボクは山形に行くときはホテルには泊まらない。
別に山形のホテルが気に食わないということではなく、ただ金がないから。

 「なので車で寝るんです」

ただ寝るだけなので車の中で充分。
そして帰りには大石田の「あったまりランド横堀」で
温泉に入って、酒田で三日月軒のラーメンを食って
帰るというのがいつものスタイル。

 


●鉄の要塞

いつものように駐車場に車を泊めて、
仕事仲間たちと会合をし、酒を飲んで深夜、
相棒とともに、寝ようとして駐車場に戻ると
駐車場はなぜか真っ暗。
中に入れない。

 「なんでなんだ県営駐車場よ!」

たぶん22:00とかで終わりなんだろうけど、
最初に確認しなかったボクらが悪いんだろうけど、
管理人のおじさん、最初に教えてくれよ言いたいとこなんだけど、
あまりにもむごい。
なにしろ財布の中には1,500円。
相棒の財布には700円。
戦慄が走る!

 「寝るとこね〜よ〜!!」

とりあえず、あいた口を懸命にふさぎ、
県営駐車場内部への決死の侵入を試みる。

 「死んでたまるか!」

地下に潜り、2階にぶらさがり、果敢にアタックするが、
さすが山形県が誇る県営駐車場。

 「ビクともしない!」

どうも、かなり外部からの侵入者を防ごうとして設計された駐車場らしい。
設計者のポリシーを切ないくらい感じる。
重要なポイントは鉄格子で固められているという念の入れようだ。
ネズミ一匹入る隙間もない。

 「いったいなんでなんだ県営駐車場よ!」

車で寝ることは泣く泣くあきらめる。

 


●空の見えるベッド

しかし、ボクらは寝なければならない。
なぜなら、とても眠いからだ。
車で寝ることはあきらめ、駐車場を去ることにする。

今、考えればそこで24時間のファミレスとかに
行けばよかったのかもしれないが、そんなことはまったく頭にない。
なにしろ当時は生き延びることで頭の中は精一杯。

ふっと見ると、向かいに公園があるのに気付く。
文翔館というとても威厳のある建物らしいが、
夜だと人気もなくメチャメチャ気味悪い。
(なんとなく人気がありそうなのもまた気味悪い)

 「オウケイ!あそこのベンチで寝よう!」

迷うことなく木の下のベンチに走りこみ、そのまま寝る。
しかし、6月は下旬だというのに相当寒い。

 「なんでこんなに寒いんだ?」
 「そりゃあんたがアロハシャツ1枚だからだ!」

身を守るものといったらアロハと会合でもらったペラペラの資料。

 「なるほど。そりゃあ寒いに決まってる。」

 


●フライングワームズ サプライズド アス

あまり寒いので死にはしないかと心配になり、
お互いに数分ごとに声を掛け合い、
お互いの安否を気づかいながら寝る。

束の間、ザワっとして目が覚める。
まわりを見ると毛虫だらけ。

 「ウソーーーー!!!???」

絶叫してみたはいいものの
木から毛虫が連続で、しかも回転しながらボタボタ落ちてきてる。
山形の毛虫はなぜか攻撃的だ。
瀕死のボクらに集団で襲いかかってくる。
 
 「なんでなんだ山形の毛虫よ!」

 


●激しい雨が

お互いの生存を確認し合い、
気を取り直して、木から離れたベンチに寝ることにする。
まだ体はカユイけど、とりあえず毛虫のヤロウはいない。

 「やっと安眠できるかな」

と、安心するや否や、

 「いきなりの豪雨!」

思いっきり無防備のまま雨に打たれて
体温は急低下。
フイに横を見ると相棒は神に祈ってる。

 「なぜなんだ山形の豪雨よ!」


 

●アナザーヘヴン

もう動く気力も失われ、天にこの身を任せようとした瞬間、
立派な「あずまや」が視界に入る。
泣きながら喜び合い、
あずまやに突入するとそこは天国!
なにしろ毛虫はいないは雨はあたらないはで至れり尽せりだ。

 「最初からあずまやで寝ろよ!」

と、お互い言いたいところだが、
なにしろこちらも生き延びることで精一杯だ。
もう生きて故郷に帰ることしか頭にない。

 


●人食い人種との戦い

天国のようなあずまやで寝ること数分、
幸せはそんなに続かないものである。

爆音が近づいてきたなと思ったら、
あずまやの外には地元先住民の部族(地元ヤンキー)が!
どうやら取り囲まれてるらしい。
好戦的な人種の彼らはボクらに向かって空き缶を投げつける!
よく見たらヌンチャクのような武器を持った先住民までいる!

 「ヤバイ!マジで喰われる!」

と思って必死の思いで死んだふりをする。
どれぐらいの時間が過ぎたか。。。
酋長らしき人物の引き上げの合図で先住民は去って行った。
連中も死体にまでは手を出さないのだろう。
それほどぼくらの死んだふりがうまかったということだ。

 


●ケルベロスとの死闘

人食い人種たちが去ったと思ったら今度は、
やたら獰猛そうなウナリ声が聞こえてくる。
嗚呼!故郷に帰れる日はくるのか!

 「ヤベエ!今度はケダモノだぞ!」

隆々とした筋肉の大型の肉食獣がこちらの様子を伺ってる。
犬のように見えたが、もしかしたら虎だったかもしれない。
いずれにせよ、死んだふりが通じそうな相手にはとても見えない。
一度でもカジラレルようなものなら一巻の終わりだ。

 「逃げよう!」

空き缶を投げつけるのを合図にダッシュで逃走する作戦で行くことにする。
しかも超ラッキーなことに、距離にして150メートル。
すぐ近くに24時間営業のコンビニが見えた!

 「なんで今まで気がつかなかったんだ!」

後悔してるヒマはない。
なにしろ、敵は目の前にいる。

 「キョエーーーーーーッ!!!」

奇声とともに空き缶を空に向かって投げるが、
さすがは大型肉食獣。
そんな缶には見向きもしない。
まっしぐらにボクら(肉)を追いかけてくる。

しかし、ギリギリセーフでコンビニイン!

 


●生きてこそ・・

コンビニに命からがら逃げ込むと、
そこには久しぶりの文明の匂いを感じた。
でもそこはコンビニ。
ボクらのように毛虫に刺され、ずぶぬれで、
しかも犬に追いかけられた人間が訪れる場所ではない。
とても嫌な顔をされるがとりあえず、雨に濡れることはないし、
魑魅魍魎も人食い人種も肉食獣もいない。

幸せをかみしめながらコンビニの便所で寝ようとすると、
店員に激しくおこられる。
どうやらマークされてるようだ。

しょうがなく、コンビニであったかい缶コーヒーを買って外に出る。
しかし犬がくると困るのでコンビニの前から動けない。
やっと逃げれる場所を確保したのだから、そこを離れる手はないのだ。
そして缶コーヒーはもちろん飲まない。
冷え切った体を温めるため脊髄のあたりに押し付ける。
体温の回復を図るために買った缶コーヒーなのだから。

温かくなってきたしかなり楽になってきた。
生き延びる自信が沸いてきた。

目の前にはベンチがある。
今日出会った4個目のベンチだ。
しかも寝やすそうなベンチだ。
運も向いてきた。
たぶんコンビニのベンチなんだろうが関係ない。
店員におこられようが叩かれようが、
こっちは生き延びなければならないのだから。
田舎に残してきた女房をひとりものにするわけにはいかない。

 


●暗鬼夜行・・・

ベンチで寝ながら、相棒がいないことに気づく。
しかし、もはや探すつもりなどまったくない。

 「彼も無事でいてくれればいいが・・。」

なんて思えたのは最初だけのこと。

 「あのヤロウ、もしかしてホテルとかに行ったんじゃねーだろうな・・」
 「あのヤロウ、もしかして金持ってたんじゃねーだろうな・・」
 「あのヤロウ、もしかしてシャツとかもう1枚持ってるんじゃねーだろうな・・」
 「あのヤロウ、もしかして山形におじさんとかいるんじゃねーだろうな・・」
 「あのヤロウ、もしかして今ごろ羽毛のふとんとかで寝てるんじゃねーだろうな・・」
 「あのヤロウ、もしかして・・」

こうなりゃ友情もクソもあったもんじゃない。
このコンクリートジャングルは人の心を鬼に変える。
今度は次から次へと出現する疑心暗鬼と戦うハメに。
もう相棒のことがウラヤマしくてウラヤマしくて夜も寝られない!

そうしてベンチでナナメになってモンモンと寝てると、
コンビニに来たカップルがヒソヒソと話してる声が、
ショックなことに思いっきり聞こえた。

 「ちょっとあの人気持ちわるーい。死体みたい(女)」
 「あーなっちゃ終わりだべ(男)」

自分の情けなさと死体のふりのうまさに涙が出てくる・・。

 


●人生は旅のようなもの。だから一生懸命に生きよう!

そして待望のライジングサン!
ベンチでナナメになりながらもついに朝陽を迎える。
小鳥たちもボクの生存を祝福してくれてるようだ!
神々しいアーリーモーニングに生存の歓びをひとしきりかみしめ、
いざ、鉄の要塞、県営駐車場へ!
希望の門よ、開け!

駐車料金は衝撃の1,500円!

嗚呼!

 「缶コーヒー我慢してたら足りてたのに!」
 「しかも飲んでないのに!」


そして携帯電話に女房からTEL!
追突事故に遭ったらしい。被害総額35万円!

嗚呼!

 「神よ!」


こんなことがあるから旅はやめられない。
山形の皆さん、市内で野宿することがあったら
ボクに連絡ください。 ⇒ mailto:hasse@totocal.com
快適なベンチをお教えできます。

 

 

 

(インパク山形県パビリオン出稿作品)




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